障害者旅行の段階的発展

☆文献

 

 

井上寛著 流通経済大学出版会 2010

ISBN978-4-947553-51-5

定価 本体3000+

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週刊社会保障 2618(2011228日号)34ページに書評が掲載されました。

「この一冊」

本書のテーマは障害者の旅行である。本書は、これまではさほど重点的に扱われてこなかった障害者の旅行を正面から取り上げ、旅行こそが障害者の自立を育む契機につながる、と論じている。本書は、序章、第1章〜4章、終章から成る。

本書の特徴は、ミシェル・フーコーの『狂気の歴史』の理論を援用し、「排除」をキーワードに障害者の旅行をめぐる動きについて検証を行っている点にある。

本書ではこの「排除」の形態を「隔離型排除」と「分離型排除」の2種類に区分している。「隔離型排除」の例として主に196070年代の社会で、産業の担い手として期待できない障害者の多くが社会から「排除」され、施設での隔離政策を余儀なくされたことを挙げている。この頃、障害者旅行では大きな動きがみられた。重度の障害をもつ石坂直行氏が1972年に車椅子でヨーロッパ旅行を実現させたのである。氏はその後、この渡欧の経験を活かしてより多くの障害者に旅行の機会を広げるために、交渉に駆け回るようになる。

一方、「分離型排除」は1981年の国際障害者年が契機となり、健常者を中心とする社会に障害者を包摂するという視点から、障害者の社会参加が呼びかけられたことで生じた「排除」をいう。この80年代の障害者旅行は、障害者へ参加を呼びかけるも、健常者とは分離されたプランの提供であった。また、旅行の計画も障害者自らが主体的に携わることはなく、ボランティアなどの視点から計画されたものであった。その後、90年代に入り「分離型排除」は消滅に向かった。この頃になると、大手旅行会社はそれまでとは一変し、全社を挙げてノーマライゼーションについて学ぶなど、高齢者や障害者旅行への理解を深めるようになる。これには、社会の高齢化や障害者間の変化、また海外の障害者福祉の動向が影響しているという。

しかし、2006年に施行された障害者自立支援法により、克服したはずの「排除」がただ姿を現した。それは自立支援法で導入された応益負担が関係している。乏しい収入であっても、サービスの1割負担を強いられるようになったことで障害者はより経済的に苦しい立場に陥った。

これに対して著者は、先人たちが身をもって証明してきた障害者旅行の重要性と意義を考えると、自立に資する旅行を障害者から遠ざける政策は自立支援とは言えないのではと、疑問を投げかけている。著者はこの新しい「排除」の出現に対して、グローバルな視野から研究する必要があると指摘している。果たしてグローバルな視野からの研究とはどのようなものか。

本書は、障害者旅行について見識を広めるための必読書としてのみならず、日本における障害者福祉の変遷を概観でき、障害者福祉を学ぶ入門書としての活用も期待できる。著者が指摘する現状の障害者福祉の教科書では触れられていない「隔離型排除」の歴史を理解するうえでも、本書は重要な学びの機会を提供してくれるであろう。一読をお薦めしたい。

 

 

所蔵している大学図書館のデータ 

 

大学などの研究機関=101館 CiNii Books (http://cinii.ac.jp/books)をご参照ください。

 

 

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